アルフレッド……。

夢を見た。
その夢の中では、昨日、えらい事件に巻き込んだアーサーが出てきた。
かれは、昨日と同じように、きっちりと制服を着込んでいる。やはり、自分より背は少し低く、そして肩が細い。
「ずっと、ずっとお前みたいな奴をまってたんだ」
彼は、そっと自分に近づいて、アルフレッドの頬をはさんだ。
場所は気がつくと保健室だった。そういえば、昨日、さぼりの名目でかれが保健室で寝るのだいうのを知った。
彼の、薄い唇が近づいて、意外と低いその声で囁いた。
「メガネが邪魔だ」
彼は、眼鏡をとりさってそしてその唇が……。
「アーサー!!」



ちゅんちゅんちゅん。


アルフレッドは飛び起きた。飛び起きて、しばらく布団をはねのけてじっと、自分を観察した。
はー、っと盛大に溜息をつき、パジャマのまま制服と下着をもって洗面所に向かう。
パンツを洗いながら、「この夢はないだろう」と憂鬱になった。

「惚れたぜ」

いや、あれはきっとパンチに惚れたとかそういう意味だ。
っていうか、あんな変な人とか関わりたくない。
けれど、それにしては妙にリアルだった――。
アルフレッドは首を振った。そんなものはパンツのしみと共にわすてしまおう。きっと疲れてるんだろう。

「行ってきまーす……って君!」
「よう」

玄関をでると、そこにはアーサーが立っていた。
「……今日はどういった用なのかな」
「俺は昨日からお前の舎弟だ。だから迎え手に来た」
若干耳を赤くしながら、彼は言った。自分よりもよほど着崩さずに制服をまとっていて、一見、優等生善として見える。
「鞄かせ。持つ」
そう言うと、殆ど奪うようにしてアルフレッドの鞄を持って勝手に学校の方へと歩き始めた。
「何をいってるんだい?!昨日のはたまたま、偶然だろう!って喧嘩だって君が勝手に」
アーサーは諦観したように言った。
「馬鹿いうな。あんな人前で負けたんだ。偶然だろうがテメェの勝ちだ」
けど!とアルフレッドが反論すると、アーサーはガンを飛ばした。
「ああ、てめえ、俺が舎弟じゃ不満だってのか!」
「いや、舎弟とか!それ以前に俺まだ学校に友達もできてないんだよ!」
は?とアーサーは首をかしげた。
友達?トモダチ?
その概念を確認するように、アーサーは顎に手をあてた。
「いや、そんな気にしないでいいよ。そもそもまだ入学二日目…」
「だったら、俺がなってやろうか?」
へ?とアルフレッドは顔をあげた。
「お前のダチ」
今度はアルフレッドが驚く番だった。
昨日の今日でそれは一体。そもそも喧嘩を売ってきたのはアーサーの方だ。
アルフレッドの沈黙をNoと受け取ったらしいアーサーは、プイ、と横を向いた。
「い、いやなら別にいいけどよ……別に、そ、そんなの慣れてるんだからな」
赤い顔、伏せた目元。小さな耳、夢と同じ唇――
(ってなんなんだいその顔!)
アルフレッドは、無自覚に息をのんだ。
「い、いらないっていうかね!」
「な、なんだよ!俺じゃ不満なんだろ!」
「違う、事態が、その飲み込めなくて、ごめん!」
なんで、俺謝ってるんだろ?アルフレッドは不思議に思いながら必死に弁解した。
アーサーは、はぁ、と溜息をついて、アルフレッドに背を向けまた歩き出した。
早足に、アルフレッドもあわててついていく。
「じゃぁ、お前、放課後、生徒会室に来い。それまでに決めろ」
「生徒会室、って……」
「入っただろ、生徒会。お前はきょうから唯一の役員だ。担当の教師はフランシスだから、なんかあったらあいつに聞いとけ」
入ってない、とアルフレッドが言う前に、アーサーが振り向いて口を開いた。
「――きたら、いいもんやる」

そういった、顔が、「いいもん」に見えたことなんて、口が裂けても言えない