RUSH
 セックスフレンド。
 セックスフレンド。
 セックスフレ……。
 ビービー。アルフレッドの脳髄がビジー状態です。

「え、へぇ、ふ、は?」
 そうこうしていると。
「おお?また会長と一年のアメリカ野郎がバトってんぞ!!」

ち、とアーサーは舌打ちをした。
「ちょっとこっち来い!」
ぐぃ、っとすごい力で腕を引っ張られた。痛い!と叫ぶ間もなく、ピシャリ、と扉がしまった。中は、殺風景な生徒会室。アルフレッドは混乱したまま、アーサーの顔を見た。彼は、意外と冷静そうに「悪いな、ギャラリーが来ちまったから」と言った。
 アルフレッドの腕をはなすと、彼が先日、横になって寝ていたソファの前に立っていた。口調はぶっきらぼうに、なぜかほんのり耳と頬を赤く染めて、その薄い唇を開いた。

「俺の、夢だったんだよ……。この部屋で俺より強い男とやんのが」


 アルフレッドは、アーサーより少し上背がある。ヤンキーのくせして、きちんと結ばれたネクタイ。その襟もとから除く首は白い。
(って俺!)
 とセルフ突っ込していたら。
 彼の、少しうるんだような緑の目が眼鏡のアルフレッドを見返した。
「俺を抱けよ」

 爆弾投下!!

「か、かいちょうさん?」

 やる、抱く、やる、抱く、やる、抱く……。
 頭の中で二言がひたすらリフレインしていた。返事がないのにじれていると、途端にドスン、とソファに押し倒された。
「うわぁ!」
同時に、上にのしかかられる。

(あ、軽い、やっぱ、細い、じゃなくて!)

 ソファが男二人分の重みでギシリ、となった。アルフレッドは、心臓が口から飛び出しそうなほど緊張した。彼の左手に、自分の汗ばんだ右手が重なる。はぁ、という吐息がやけに大きく聞こえた。

「眼鏡、邪魔だな……」

 アルフレッドの眼鏡のフレームに、すっと、アーサーの指が伸びた。

「ぎゃああああああああ犯されるーーーーーーーーーーーー俺の童貞があああああ」

 と叫んだかどうかはまったく別にして。
 極度のパニックに陥り起き上がったアルフレッドの頭がアーサーのあごにクリーンヒットした。




「ほぉ?よぅくこのヤンキー気絶させたな一年坊主。こいつが怪我人になって運ばれるなんて初めてなんじゃねぇか」
「そんなことより、しっかり見てくれよ!もし、脳になんか異常があったら……」

 保険医フランシスは、は腹を抱えて大げさに笑った。あんまりな笑い声だったので、アルフレッドは少しイラっとした。

「脳震盪おこして寝てるだけだ。つーかこいつ、寝不足だったんじゃねーの、単に」
「寝不足、って……」

 なんともいえぬ含み笑いをしながら白衣を着て足を組む男は、少年からみてもドンファンでとても教育者には見えない。どちらかといえば、R&BのPVにでも出てきそうな、奇妙ないやらしさがある。先生らしからぬ、無精ひげのせいかもしれない。
 入学式の、あのひどい挨拶もあって、アルフレッドの彼に対する心証は決して、決してよくなかった。

「おまえも、デコが切れてるな、消毒だけしてやるよ」

 フランシスは、子供をどうすれば怒らすことが出来るのか、心得ているような笑いを浮かべた。アルフレッドは黙って、されるがままにしていた。

「痛!」
「我慢しろ。で何があったんだ?この少年ハリネズミと」
「ハリネズミって……」
「ハリネズミだろ。愛が欲しいのってんのに毛を逆立ててる」

 フランシスは、アーサーが寝ているベッドをみた。周りは、カーテンで仕切られていて、その姿を見ることはかなわない。しかし、そのフランシスの表情から、どうにも彼と深い関係があるような気がして、アルフレッドはムカついた。
 って、ムカつくなよ俺!

「何があったって程じゃないよ、なんかちょっとした、事故で」
 セックスしようって言われましたとはプライドにかけて言えなかった。
「お前がコイツをのしたのも事故なんだろ」
フランシスは見透かしたよう言った。

 アルフレッドが、きょとん、としていると、無理やり俺の手を取って甲を人指し指で叩いた。
「大きな、いい手だ。筋肉が厚い。でも、拳の骨がそんなに削れてない。球技かなんかしてたんだろうが、多少の喧嘩はともかく、毎日喧嘩してる手じゃねぇな」

 それでも、この頑丈さがだけが取り柄のハリネズミを気絶させるなんて大した意思頭だぜ、とフランシスは機嫌よさそうに笑った。
「本当は」
 まだ、転校したばかりの異国の地で、イレギュラーな事態ばかり。
 それでアルフレッドは口をすべらしたのかもしれない。

「ずっと野球がしたかったんだ。アメリカでは毎日ボールをなげてた。期待のエースだったんだよ?でも、すっぽぬけたボールが、目にあたって、怪我して」
 それで。
「イギリスじゃぁ、野球なんて本当だれもやってないしさ。さっき、褒めてくれたこの手も――」
 キャッチボールもできなきゃ、すぐに変わっちゃうんだろうね。
 ボールに触りたい。バットをにぎりたい。グローブの、皮の香りを吸い込みたい。

「舎弟なんていうからさ、せめてあの人が相手になってくれたらな、とか」

 アルフレッドが言う途中で、フランシスが、何かいってやろうと口を開きかけた時に、突然カーテンがい空いた。

「おい、アルフレッド!!」
「わ、なんだい!!」
 そこには、起きたアーサーが仁王立ちしていた。
「やるぞ、キャッチボール!」
「え、嫌でも、君さっきまで失神……」
「舎弟の俺とキャッチボールしたいつったのはお前だろ!!」
 アルフレッドがフランシスの方を振り向くと、彼はけらけらと笑った。
「大丈夫、ソイツ頑丈だから。先生にお前ら早退っていっとくから、いってらっしゃい」
 教師がサボタージュを薦めるとかいいのかこの学校!
 と突っ込む間もなく。

「行くぞ!キャッチボール!」
 アーサーはアルフレッドを引っ張っていったのだった。










 →