結婚を考えてくれないか? 結婚を考えてくれないか? 結婚を考えてくれないか? 結婚を考えてくれないか? 「うわあああああああああああああああああああああああああああああ」 ご近所迷惑を顧みないドイツの絶叫はとまらない。イギリスはその余りに動揺した様子に、腹を抱えて笑いだし、しまいには咳をしながら、涙を指ですくうありさまだった。 「イギリス!」 「な、なんだよ?」 笑いすぎて呼吸困難になっているイギリスの両肩をガシッと掴むと、ドイツは軍隊式に声を荒げた。 「お前はいまだこの後に及んで二股をかけるというのか?」 「はぁ?!」 イギリスは何言ってんだこの馬鹿という表情をしたが、ドイツはまったく気付かなかった。 「俺がいつ、誰と誰と二股かけたっつーンだよ、変なこと言うとスコーンくわすぞこのクラウツ!」 「お前こそ何そいうんだ。だって、兄さんと教会で腰を抱きながら歩いていたではないか!」 ドイツは根がまじめな分、大変、大変真剣だった。「は?」 「教会で、結婚式の予習を!」 一応空気の読める男イギリスは瞬時にドイツの言わんとしてる事を察した。 フランス、スペイン程スキンシップ大好き体温ベタベタ愛してるな人間でもないが、アメリカ、ドイツに比べると、男同士のスキンシップそんなこわがらなくてもよくね?な思考回路をもつイギリスにとってプロイセンとのアレは酔っ払って肩回して歩いているのと対して変わらない気分で行ったことだった。久々の共に会えば1回くらいのビズとハグはする。ちなみに東ドイツは基本西ドイツにくらべるとやんちゃである。 イギリスは、ポリポリと頭をかき、なんだ見てたのか、とぼやいた。 「ほらやっぱり!」 「やっぱりじゃねぇ石頭!一人で頭のなかでビッグバーン起こして勘違いすんなばかぁ!」 イギリスの剣幕にこんどはドイツが押し黙るばんだった。 「俺は奴に結婚を相談したんだよ!!」 「は?!」 「は、じゃねぇ、阿呆!奴とは友人だ。一応お前の兄貴分の許可もとらず結婚とかいえるか。オーストリアのこともハンガリーのことだってあるんだ、その辺の話とかで前から相談してて、ついでに式の話も含めてこっち来てもらってたんだがわかったか!」 怒ったイギリスは怖い。基本怖い。伊達に年上ではない。ドイツは一瞬固まった後、それからか細い声で言った。 「ほ、本当にか?」 「本当だ。だから寧ろ、お前は兄貴分に感謝しろ。俺でも悩んだんだよ。そしたら自分の気持ちに従えって言ってくれたのはあいつだ。だからいうぞ。結婚してくれよ」 アイツもいってたし、わかってたけど、お前本当こーゆの餓鬼なのな。ああおもしれぇ。 イギリスはスマイルとはとても言えない片方だけ頬をゆがませるスマークを浮かべた。彼らしい、人を食ったような、いつもの笑い方だった。 ドイツは思った。 ああそうだ、嫉妬した。一杯嫉妬してわけがわからなくなった。 それで、結婚。本当に?兄さんじゃなくて、俺と?この、俺と、こいつが?ユーモアセンスの欠ける事イタリアにすら駄目だしされたこの俺が?本当に。 「わああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」 ドイツは、再び絶叫をしてイギリス宅を飛びだしたのだった。 イギリスは拳で笑いの堪え切れない口元を押さえつつ、いなくなったドイツの方をみやって、あとで絶対プロイセンと一緒にからかってやろうと決めて呟いた。 「ピー。ピー。ピー。ただいまドイツ人の脳内が処理落ちを起こしています。回復まであと2分ほどお待ちください……。」 別に、俺そんな浮気性じゃねぇんだけど。まぁ、でもコイツの反応は面白い。あとで一杯「よしよし」して、甘やかしごろごろさせてやろう。多分、あいつに必要なのはそういうことだ。でもってそれは俺も甘えてるってことなんだ。 うんそうだ、きっとあいつの事だから、無駄に不安一杯で数日すごしたろうからな。うかつだった。それがいい。ごろごろさせてやるさ。 イギリスは、ドイツが戻って来た時のために、勝手知ったる人の家、温かい紅茶を用意しにキッチンに向かった。 夜中だった。ドイツは情熱にまかせて、走って村唯一の教会まで行き、墓場のまで、「神よ!」と叫んだ。そして墓場にむかって演説した。 諸君、俺は大英帝国が好きだ 諸君、俺は大英帝国が好きだ 諸君、俺は大英帝国が大好きだ 伝統が好きだ 革新が好きだ 皮肉が好きだ 酒癖が好きだ 淫蕩が好きだ ロンドンで ポーツマスで バーミンガムで シェフィールドで ヨークで この地上に存在するありとあらゆる大英帝国イングランドの所業が大好きだ 大量投下され嚥下されずにこぼれる麦酒が好きだ 唇をよごし首から胸へと垂れる様など心がおどる 嘘と皮肉を紡ぎ自他を殺す黒い三枚の舌が好きだ フィッシュアンドチップスをしゃぶり舐めつくす時など胸がすくような気持ちだった 土を掘り水を遣り芝を育て花と樹花をめでるその指が好きだ 拳を握りフランスの胸毛と髭に甚大なる被害を与える様など感動すらおぼえる サッカーボールを蹴り飛ばすその足がなどもうたまらない レストランのテーブルの下で俺の股ぐらをさぐりだすのは最高だ 髭をはやしビールを嘲笑い節操無く美食にひたるのを 踏み倒し蹴り倒し血の雨をふらしながら高笑いをしている時など絶頂すら覚える 酒におぼれて翌日「死にたい死にたい」と一人つぶやく様が好きだ 俺以外の不憫や髭やメタボやトマトにエロ光線を送ることはとてもとても悲しいものだ 嫉妬に光る緑の袖を持つ目が好きだ 昔日の独立宣言に負けるのは屈辱の極みだ 諸君 私は大英帝国を ロマンス小説様な愛を望んでいる 俺は更なる愛を望むか? 糞の様な愛を望むか? ブロンド姉妹の嵐より激しく、エリザベス・ギャスレイの良識よりも重く、ジェーン・オースティンの忍耐よりも甘い愛を望むか? ああイギリス!イギリス!イギリス! よろしい ならば結婚だ だが、ベルリンでパリでNYでトーキョーで結婚を語るのを憚って言った俺に ただの結婚ではもはや足りない!! 大結婚を!! 一心不乱の大結婚生活を!! 確かに俺の経験はわずかに小数 むしろ京分の一の彼方のゼロに等しい ラテンの情熱愛情家に比べれば物の数ではない だが俺が一騎当千の恋愛ロマンチストだと俺は信じている なら俺は総兵力100万恋愛小説と1人ロマンチストとなる これまでの屈辱を忘却の彼方へと追いやり、世界中に招待状を書きだそう 互いにタキシードを着て口づけをかわし 連中の眼(まなこ)をあけて思いしらせよう 独英大結婚作戦通称「プロポーズ受諾大作戦」 状況を開始せよ 征くぞ 俺!! 死人達の夜の眠りを妨害する演説を終える家に戻ると、居間のテーブルの上に置かれた二つのマグカップから湯気がたっていて、部屋を紅茶の匂いがみたしていた。イギリスは、ソファに座ってが笑いをこらえながら待っている。 「もういちど確認する」 ドイツは真っすぐイギリスの目を見て行った。 「お前は、俺に、結婚してくれと頼んでいるんだな」 「そうだよ、あんま何回もいわせっととりやめんぞおい」 偉そうに笑ってから、不意に横を向いた。耳が赤い。いいな。いい。いいじゃないか。 最高のロマン小説だ。ハーレークインだ。何が悪い。なんで俺が告白受けてるのか若干なぞだが、まぁしょうがない。だってこいつは男前で、ヒロインというよりはヒーローだ。 「OKわかったいいだろう、結婚しよう、いや頼む、結婚してくれ」 「こっちこそ、どうも、よろしく。結婚式は、お互いタキシードでな」 「ああ、タキシードで」 そうして、ドイツは犬がのしかかるように、イギリスに飛びついて抱きついた。イギリスも、やっぱり犬にのしかかられたように、少しバランスを崩しかけて、よしよし、とドイツの頭をなでた。 だからこの二人の物語は、ひとまずこれでおしまいだ。 |