君に希望を







「廊下を走るな」

 9月に入学したばかりのセーシェルに、そう注意した少年がいた。見下すような目をしていて、偉そうだと心から思った。年は一つ上で、体はそれほど大きくない。男女は、当然違うハウスにいたから、尚更なにか言われる筋合いはないと思った。セーシェルはムキになった反論した。そうすると、彼は、セーシェルの使った英語を非難した。もっと、丁寧な英語を話せ、という。そして、発音と単語を説明した。セーシェルは憤慨した。この学校には、様々な人種、宗教、国の人間がいる。全員の母語が英語ではない。セーシェルは南国生まれの英国育ちで、英語にそれほど不自由はしていなかったが、その自身を砕くような上からの物言いに、反発を覚えた。イギリス人のぼっちゃんが、偉そうに。そう思ったのだ。こんな先輩にはならないでおこう、そう誓った。そして、彼が監督生には選ばれないように、と心から祈った。
 それから、しばらくして、彼が、他の生徒と喧嘩しているのを見かけた。といっても言い争いだ。まるで、ディベートを見ているようだった。お互い、理路整然としていて、かつ譲らない。英仏の溝は、いまだ深いのだとセーシェルは体感した。そして、そのイギリス人が、ぼっちゃんでないのをその時に知った。
 次に彼を見たのは、ステージの上だった。晴れた日の日曜。春の音楽祭だった。よく覚えている。ピアノ、歌、バイオリン、オーケストラ。様々な場所で様々な音楽が行われる。それを、監督生や、委員会が仕切っている。以前、喧嘩していたフランス人の生徒が、マイクの前に立っている。声変わり終えたばかりの、掠れた低い声。その横で、彼は楽器を弾いていた。まだこのころのセーシェルには、ベースとエレキギターの違いは理解できなかった。ただ、そうして制服を着たまま、汗をかいて楽器を弾いている姿は、格好いいな、と思った。それに、上手かった。素人でも、その手の動きのすごさはわかった。演奏が終わると、四人は前に出て、お互いの肩を抱いた。感極まってか、ボーカルがベースの彼に両頬にキスをした。はやし立てる口笛の音。ライブの感覚を、この時多分知った。  その二人は、よく学内で見かけた。何かで賞をもらって、朝礼で校長の前に立つことが、少なからずあったからだ。つるんでいるからよく目立つ。あんまり一緒にいるところを見かけるから、ホモなんじゃないかと思った。二人とも、女の子の噂に上がる方ではあったけど、そんな噂があって、セーシェルはこっそりそうだと信じていた。事実、あのバンドのメンバーの一人は、そうだとカミングアウトしていた。学校の外に、恋人がいるらしい。
 それから、3年後、彼は監督生に選出された。次の年に、セーシェルも監督生になった。自分で驚いた。その後、彼は生徒会長になった。  彼らのバンドは、今も続いている。ただし、そのバンドは今年の7月で解散が決まっていた。


「会長」
「もう会長じゃねぇ」
「まだ一か月半もありますよ。だから手伝ってるんじゃないですか」
「手伝ってるのは俺だ」
「いいじゃないですか、今までこき使ってきたんですから」

 監督生用のミーティングルームには、3台のパソコンがある。二人は、イラストレーターで、卒業イベント用の冊子を編集していた。その編集長が、セーシェルだった。
「まぁでも、卒業、合格おめでとうございます。ケンブリッジなんて最高じゃないですか」
「金がかかるけどな」
 アーサーは、心から嫌そうに言った。セーシェルは肩を竦めた。
「英文学に進むと思ってました。いつも、本読んでたし」
 考えはした、とアーサーはマウスを叩きながら、ぶっきらぼうに言った。
「でも俺の性格じゃ一番好きな分野で仕事するのは、逃げ場がなくて辛くなると思った。だから二番目に好きな分野にした」
「それがロボット工学ですか?」
「SFと一緒に歩けるだろ、それも。お前はどうすんだ?」
「まだ、決め切ってはないです。でも出来れば生物系に」
 アーサーは、興味なさそうに、ふーん、と言った。部屋が使えるのは、あと一時間だけだった。それが終わったら8時から10時までの自由時間で寮の室内ででやらなくてはならない。

「卒業旅行とか決めたんですか?」
「フランシスがパリ案内したいつーからあいつん家いくことにした。その後、ギルベルとの家まで行く」
「そんなだから、二人して何時もホモみたいだっていわれるんですよ」
 アーサーは、作業を止めて「てめぇ……」と言って苦い顔をした。セーシェルは、だって、と反論する。
「外出までよく二人でしてたじゃないですか」


 セーシェルは、その昔、防音室で見た光景を思い出した。彼女は、春の校内音楽祭の進行を担当していた。確認したいことがあって、練習中であるはずの防音室のドアをあけた。瞬間、怒声で身を縮こまらせた。
「おい、フランシス、この俺以上に優先すべき週末の予定とはなんだ。100words以内で簡潔に答えろ」
アーサーは、フランシスの胸襟を掴んですごんだ。背に背負ったベースで、殴りそうな勢いだった。フランシスは、鋭く睨むその目から、顔をそらした。
「いや、まぁ、俺だって忙しいんだよ」
 ギルベルトは、スネアを調整をしながら、面白そうに茶々をいれた。
「デートとか?な」
 黙ってろ、とフランシスはどなった。アーサーの機嫌は益々悪くなった。
「何で駄目なんだ。こっちはチケット買っちまったんだよ」
 もう一度、アーサーは尋ねた。アントニーニョは男二人で出掛けるに予定だったのかと少し呆れた。
「フランシス、女の子なん?ええなぁ」
 アーサーはさらに怒気を強めた。
「ほぉいい度胸じゃねぇか。人にチケットとらせといて、おい。とうとう聖女様といいことすんのか、これどうすりゃいいんだ」
「この間、俺が誘ったら断ったのお前じゃねぇか!!」
「知るかよ仕方ねぇだろ、急に学校代表で呼ばれたんだから!」
「そっちじゃない、先々週だ!お前外出したよな?どこで誰と会ってた詳しく説明しろ」
「だからアルフレッドと映画見に行っただけだ、お前が見たくないつったんだろうが!信用しろよいい加減!」
 セーシェルは、深く溜息をついた。馬鹿みたいだ、とそう思った。



「傍で見てると、ちょっとおもしろいですけどね。フランシスさんに真顔で、俺ホモじゃないよな?って訊かれた時は、正直どうしようかと思いましたけど。まさかアーサーさんも、誰かにそんなこと訊いてませんよね?」
 アーサーは無言だ。ただ少し顔を赤くして、頭を押さえている。セーシェルは、やり返してやった気分になった。
「そんなのも、あと一か月だ。貴重だろ」
 自虐的にアーサーは言った。二人で卒業旅行にいくんだから、全然そんなことはないだろうに、とそう思ったけど口には出さなかった。彼らの進路は、別々だ。
「5年間、大変だったでしょうに、この学校、皆育ちがいいから」
 そうだな、大変だった、とアーサーは静かに言った。集中力が切れたのか、椅子にもたれて、溜息をついた。
「お前は?」
 作業を続けるセーシェルの方をむいて、アーサーは訊いた。彼女は画面を向いたまま言った。
「大変でしたよ。でも奨学生に比べたら。ねじ曲がってますけど、のし上がったその根性は尊敬しますよ」
 アーサーは声を出して笑った。夕日が、窓をさした。作業、すすめてくださいよ、とセーシェルは文句を言った。

「それしか、なかったんだよ。俺にはな」
 声に、ナルシスと自嘲が混じっていた。セーシェルは、変わらずマウスを叩きながら、ちらりと、彼を見やった。その言葉には限界に、俺は他とは違う、という意識が強くあった。
「反発しなかったんですか。先生じゃなくて、周りの子に」
 私はしました、とセーシェルははっきりと言った。アーサーは、いいじゃねぇか、お前はまだ、と言った。
「7年生の時はとっくみあいの喧嘩もした。聞いたことくらいあるだろ。ハウスも違うのにフランシスと殴りあった。その度に育ちちらつせられてみろ。そのくせ、労働者階級なんてはっきりいいやしないんだ。根性も捩子曲がる。ただ、あんまやるとスカラーシップ(奨学金)取り消しだからな、次の年からは口にした」
 アーサーの口調は、妙に明るかった。
「でもご家族はうれしいんじゃないですか、きっと。ここまできて」
 アーサーはまた笑った。
「どうだかな。スカラーシップがとれたって、金食い虫扱いだ。学なんていらねぇだろ、って兄貴達にいわれたのも何度もあった。勉強が好きなんだな、とか、頭がいいな、とか出来がいいっていうのは、真面目って奴と同じで、場所によっちゃ、褒め言葉じゃないんだよ。アルフレッドなんかにもそう言われるけどな、結構腹立つぜ」
 セーシェルは、今まで疑問に思ったていたことを口にした。

「なんで、この学校に入ったんですか?私は、入れられましたけど」
「入ったんじゃない、たまたま運が良くて入れたんだよ」
「それだけじゃないでしょう」
 アーサーはしばらく黙った。手を組んで、目を隠して言った。「這い上がりたかったんだ」
「公立のプリマリースクールでも、うちの地域は出来が悪かった。本読んでると叱られたし、勉強してたら電気がもったいないって殴られる。考えられないだろ。私立校に入るなら、家庭教師をやとうのが普通だけど、そんな余裕だってもちろんなかったしそんが考えもないようなとこだった。上にいきたきゃ、オジーみたいにロックスターになるか、ベッカムみたいサッカーをやるしかない。俺は、あの街は決して嫌いじゃない。あいつらがいなきゃ、誰がこの国の低賃金労働を支えるんだ。けど、アル中かヤク中になって、文句を言うだけっていうのは死んでも嫌だと思った。ロックスターになるよりは、勉強の方がまだ可能性があると思ったんだよ。才能が関係ないし、バンドと違って仲間もいらない」
 低い声は、不思議なことに妙な軽さを含んでいた。

「グラマースクールにそのままいればよかったのに。そしたら多分、苦労は今の半分ですよ」
「まるで俺にこの学校に来て欲しくなかったみたいな言い方だな」
「そりゃそうです、そしたら私の苦労も半分です」

 セーシェルが入学した時から有名だった。労働者階級の優等生。金もなければ、縁故もない。家の名誉もない。完全寮制の私立校の学費は莫大だった。しかし、優秀な労働階級の学生にも選択しはあった。公立のグラマースクールだ。下層の私立校よりも成績が良いところも決して少なくはない。それなら、学費は私立校より遥かに安く、同じ階級の人間も少なからずいる。事実、プリマリー(日本の小学校。10歳で卒業)卒業後、彼は、グラマースクールに進学した。しかし、12歳になった時に彼は、全くの異世界に飛びこむことを決めた。

「グラマースクールは、親に頼んで入れて貰ったんだ。反対されたけどな。行っても、今度は大学に行って独り暮らしする学費なんて出せねぇって。そう言っても受かったら出すだろうと思って俺は行くって言った。でも、本当にここに入れたのは運が良かったんだ。先生に、入れるなら入りたいつったら、スカラーシップの応募を勧めてくれた。そしたら受かった。兄貴も皆家出て、金入れてくれてたからな。なんとか。あとはこっちの先生が親を説得してくれた」

 セーシェルは溜息をついた。普段は行儀にうるさい彼が、今だけは行儀が悪かった。それを、上手く隠して生きてきた。

「そんなに勉強してて、よくベースなんて弾く暇がありましたね」
「息抜きだ。それに成績に利用できた。この子は勉強だけじゃない、ってな」

 家庭教師をつけて、叩いて伸ばしてやっとのことで入る生徒がいる中で、独学でここまで来て待ちうけているのは、間違いなく嫉妬だ。そして本人にも高すぎる程のプライドがあった。
「その上、さらに監督生なんて、どこからそのエネルギーが来るんです。私にもわけてくれませんか?」
 お前だって、監督生だろう、とそう言った上でアーサーは体を起して作業を再開した。終業時間が、近づいていた。
「食事の時に、ナイフにソースがついてたんだ。量が少ないだろ?せめて、と思って舐めたんだ。上級生に叱られたのはまだよかった。ここでは不味いんだなと思ったから。同級生に笑われた。それで、のし上がってやろうって決めて、図書館でマナーの本を読んだ。多分、それが最初だ」

「最後は生徒会長。本当、見上げた努力と根性ですよ。猫もかぶって」
 セーシェル、とアーサーが名前をよんだ。はい、と言ってセーシェルはそちらを向いた。アーサーが、コツン、とセーシェルの肩に額を乗せた。
「しんどくなかった、つったら、嘘か、嘘だな」
 セーシェルは動かずに、居た。肩に乗る頭が、重たいと思った。どうしていいかわからずに、ただじっとしていた。
「俺、10年の時にやめそうになったんだ。やっぱり金が続かなくて。今は学費ゼロ、小遣いまででてる」
 え、とセーシェルは驚いた。やめそうになったことにも、学費のことにも。スカラーシップの最高免除は学費の20%だった。また、英国では家庭による経済状況が、それに加味されることもまずなかった。
 膝貸せ、とアーサーは言った。つぶやきに近かった。
「今の13年(最高学年)が卒業したら、この学校のセクハラは確実に減りますね」
 セーシェルは、努めて元気に言った。アーサーは、さよならできてよかったな、と、そのまま肩にもたれて笑った。

「知ってるか?退学の申し出は一年前にするのが義務なんだ。だから、取り返しがつかなくなる前に言った。学費で一家無理心中なんてごめんだったしな。そしたら、ゼロでいいって言われた。笑っちまう!年間24600ポンド(約600万円)がタダだぜ、タダ!そのうち、次の年からは小遣いまででやがった。ありえるか、そんなの。でもな、その分は、わかるだろ?ここはそういう場所だ。俺はここで24600ポンドとこづかい分、貢献しなきゃならなかった。とちったら終わりだ。どっちにしろ、選択肢なんかない、やるしかなかったんだよ。俺は」

 言い終わる前に、セーシェルは彼の頭を撫でた。悪い、と彼は言った。不思議と、セーシェルは気分がよかった。だから膝を貸した。

「お陰で兄貴達とはいまいちだ。学費の問題は解決したのにな。まるで余所者扱いされる。こっちでは成り上がりを笑われる。どっちにだっていけない。まぁでも、奴らにはそれなりに救われたのかもな。あいつは、無神経で、遠慮がないからな」
 奴ら、の顔をセーシェルは思い浮かべた。確かに、遠慮とは無縁だなと思った。

「きっと、俺は一生、自分がどっちなのか悩んでブラブラしてんだろうな。それでずっとのし上がることだけを考えて生きてくんだろう」
 この人は今、甘えてるんだな、とセーシェルは思った。しばらく、髪を梳いていると、ありがとう、とアーサーは言った。
 最初、嫌な人だと思った。次に意地っ張りだと思った。根性が曲がっている、と思った。しばらくして、思っていたより背が高いのに気付いた。手先は器用で、性格は不器用、でも面倒見は悪くない。腹は真黒なくせに、まだどこか純粋なものが好きそうな。

「一緒に悪だくみできる人達がいて、よかったですね。卒業したら、フランシスさんと喧嘩もできなくなりますけど。静かにはなるかな」
 セーシェルは、彼らのことが好きだった。ときどき、誰に嫉妬していいのか、わからなくなるのは問題だったけれど。うるせぇよ、とアーサーは悪態をついた。
「時間は?」
 膝に頭を乗せたまま、アーサーが尋ねた。そういえば、こうやって顔を見下ろすのは、滅多にないから、今この瞬間と拝んでおこうと思った。
「もうそろそろ出ないとまずいです。食堂いかないと。あんたの仕事が待ってますよ。生徒会長がOK出すまで私たちご飯食べられないんですからね!」
 そうか、というアーサーは起き上がって頭を振った。データを保存して、USBをセーシェルに渡した。立ちあがると、やっぱり背は低くなかった。フランシスと同じ背丈だ。
 なんとなく腹がたった。腹立ち紛れに言った。
「卒業なんて、しなきゃいいのに」
 ああ?とまるで不遜に、彼は振り返った。彼の背は、同年代の平均くらいで低くもなく高くもないはずだ。なのにいつも大きく感じる。
「あんたみたいな超人がいなくなったら、誰がこの山のようなタスクを片付けるんですか」
「監督生の仕事なんて毎年、そう変わらねぇだろ」
 アーサーは、無気力にそう言った。
 まるで、校則通りの、制服の着方。少しくらい隙の一つも出しやがれ。
「卒業取り消しになればいいのに」
「俺はやっと自由の身なんだよ」
「フランシスさんに会えませんよ。それでもいくんですか、ケンブリッジ」
「なんで、あいつが出てくるんだよ。俺が残ってもどっちみちあいつは卒業じゃねぇか」
 セーシェルは、一度俯いた。また、アーサーの顔を見上げると、少しだけ、勇気を出して言った。
「今わかりました。あんたらはホモじゃなくて、二人ともタダのヘタレです」
 うっせぇな馬鹿!とアーサーは怒鳴った。こんなのが6年間、よくもった。そう思う。
 
 ずっと。ずっと、続けられると思ったのにな。

 前を歩きだした彼を、もう一度セーシェルは呼びとめた。
「アーサーさん、日本の少女漫画って、読んだことありますか?」
 彼は目を丸くした。あるわけがない、と端的に答えた。
「日本では卒業生が、ブレザーの第二ボタンを下級生にあげるのが習慣らしいんです」
 少し、アーサーの顔に赤みが走った。可愛い、と思ったが、確実に機嫌を損ねるから言わなかった。
「それがどうした。くれってか?」
 セーシェルは首を振った。
 校章の入ったボタン。最上級生のプリフェクトであることを表す縦縞の背広。生徒会長のみに渡される赤と金のネクタイ。所属ハウスを示すバッジ。でも、それよりも。
「そのバッジを下さい、名前入りの奴」
 アーサーは、一瞬、何のことかわからなかった。しばらくして、いぶかしげに胸の「Head boy」と記された金バッジを示して「これか?」と訊いた。セーシェルが頷くと、嫌そうな顔をした。
「お前、人から名誉を奪っていく気か?」
「いいじゃないですか。どうせ講堂に生徒会長の名前は代々残るんですから。それくらいケチらないで下さいよ」
 彼は頭をかいた。しぶしぶ、と言った風に頷いた。また前を向いて歩きだす。ドアをあけて、廊下の生徒たちは食堂に向かっていた。真っすぐ歩く彼のアーサーは速い。遅れないようにセーシェルはそれについて行った。
「次はだれがヘッドはだれですかね」
「わけんねぇけど、多分ルートヴィヒじゃねぁあな。あいつ、あれでギルベルトの弟だ。変な性癖があるかもしんねぇぞ」
 それはないですよ!とセーシェルは同級生を弁護した。



 会長!と声がする。高くて、よく通る。いつも元気のいい声だった。
「なんだ?」
 その声に、アーサーは意識して、常に静かに振り返った。いつだって、尊大に、横暴に、偉そうに。そう見えるように。
 セーシェルは、そのいかにも人を見下げる態度の顔を見上げた。そうすると、生徒会長を示す胸のバッチが光った。光ってみえたらいい、と彼は思った。
 それがあんまりまぶしくて、セーシェルは、今日も憎まれ口を叩いた。