招待状が来た。 「俺達結婚します。だからウェディングケーキを作ってください。料理はフルコースでお願いします」 そこには、スペインとイギリスが肩を組んで映っていた。二人とも、男らしい歯の見える笑顔だ。 俺は目がしらを押さえて――。 何事もなかったかのようにそのまま仕事にでかけた。 『フランス、フランス!!』 「なに動揺してんだぼっちゃん」 『あなたこそ、なんでそんなに落ち着いていられるのです!!』 「落ち着くも何も、ねぇよ、つーか何の話だオーストリア」 こっちは今、鉄道ストライキの所為で大渋滞に巻き込まれて苛々してるんだ。早く用件を言え、というと、あなたのせっかちさはお下品です、と奴は携帯電話の向こうで小言を言った。うっせぇな。 『あなたにも招待状が届きましたか?』 「何の、つったらまた怒るか」 『当たり前です。ということは届いたんですね』 クラクションを鳴らす。自体は変わらない。踏めないアクセルほどイラつくものはない。 『一体、あの二人は何を考えてるのですか。もう、あれは』 「で、お前は何がききたいんだ」 何がって、とオーストリアは呆れたように言った。気にすることでなし、騒ぐことでなし。こういうものは、そうするのが一番いいのだ。 『行くんですか、貴方は』 「冷やかしに行く価値はあるだろう。行くぜ」 オーストリアは何か言っている。 「ああ、そうだ、それより、俺奴らにウェディングケーキと料理作るように頼まれてんだけど」 『はい?』 「俺一人で作んのあ大変だから、お前も手伝ってくれよ。車動くから切るぞ。あ、ロマーノに電話してやれ。じゃぁな」 お待ちなさい、の「ち」で俺はアクセルを踏んだ。 門出を祝福せずして何が友人か。 そして、あっけなく、世界はその日を迎えた。 場所は小さな教会。 銀のタキシードを着た色黒のラテン系と白のタキシードを着た色の白いアングロサクソン人が、かたや笑顔で、かたや眉毛の間にしわを寄せてずっと喧嘩をしている。鐘はうるさいほどになっていて、招待客は来たくもないロッキーホラーショーにつれてこられたような顔をしている。誓いのキスなんて、そりゃぁもうお化け屋敷の出しものだった。撮影がかりの日本なんて、青ざめている。 「ねぇ、フランス」 「なんだアメリカ。つーか肉をほおばりながら喋るな」 結局食事は俺意外のフランス人の誰かが作った。だって、俺が作ったら式見れねぇジャン。 ケーキは、つくってやったけどな。オーストリアは信じられねぇつって手伝ってくんなかったけど。 「君、あの人たちが付き合ってたってしってた?」 「いいや全然」 それは意外だな、という顔をした。 「お前は?」 「しらなかったよ。だって家遠いんだよ、俺。ああでも、これからご飯たかるときは少しは美味しいのが食べれるかな」 「案外平気なのね、お前」 アメリカは、付け合わせをほおばりながらうーん、とうなった。 「ヒーローは人を差別しない、じゃだめかい?」 「いいんじゃねぇの」 俺はワインを一杯頼んだ。 「君こそよく平気だね。騒ぐと思ったのに」 「まあ、ねぇな、とは思ったけどこんなどうどうとされちゃぁな。それより、アメリカ、あれどっちが下だと思う?俺はイギリス」 「ええ?スペインじゃないかな。だってなんかそういうのイギリス耐えきれなさそう」 二人揃ってケーキ入刀する。何故か知らないが、イギリスがずっと切れている。スペインは喜んで怒らすようなことを言っている。明日にも離婚すんじゃないのか、こいつら。 ドイツとプロイセンは青ざめてるし、セーシェルちゃんはなんか私のかすかに存在した憧れはどこにぶつければという感じ。イタちゃんは眉をさげて、ロマーノはイギリスを呪い殺しそう、ではないけど、多分すっごい複雑そう。 「せめて、男でももっとましなのがいるだろうスペイン……。俺が、俺が尻をささげればあいつは……ああでも、ああ……」 ロマーノがそう言ってうなだれている。いや、ノンケの子が無理しちゃだめだよ。 そんでもって俺とアメリカは。 「変わらないですね、あなたたちは。よく耐えられものです」 オーストリアの言葉に俺はアメリカと顔を見合わせた。 「それくらいでウダウダいってられないからな。いまさら。からかう種が増えたってことで一つ」 「別にヒーローが別れさせるような展開でもないからね」 そう言って声を出して笑った。 プレゼント?大人のおもちゃにきまってる。 式が終わって、やっと話が出来た。だって、イギリスの奴おちょくろうとしても上手くさけるんだもんよ。スペインに読める空気はないけれど。 「どんな天変地異があったのか教えろよ、お二人さん」 控室でまだタキシードを着たまんまの二人は、お互いに機嫌はよくなさそうだ。 「最初なんやったけ」 「お前が唐突にスパンキングしたいとか言い出したんだ」 「ああされるとは思わへんかったわ―」 奴はいつも通り歯を見せて笑った。俺も吊られて笑った。 「んなこったろうと思った。この変態どもめ」 「お前も自分に会う変態みつければいいじゃねーか」 そうや、そうや、と声がそろう。しかしお兄さんは優雅にノンノンと首を振った。 「駄目だね。俺は皆の薔薇の花だから」 「くされチンポの間違いちゃう?」 その一言にイギリスが爆笑した。失礼な。 「……ケーキ作ってやった分の金請求すんぞ」 「それはあかんて!いま出費大変なんやから」 イギリスが、払わなきゃいいんだよ、馬鹿、と言った。スペインはむっとしたようだった。 「訊かねぇんだな」 少し不安そうに、イギリスが言った。 「訊いてほしかった?ぼっちゃん」 俺は、昔のまだ、小さかったころのあいつに話しかけるような声を出した。俺は二人を観察する。その距離は近い。イギリスは、顔だけで苦笑した。 「訊いてわからんことは訊いても仕方ねぇだろ。まぁいいんじゃねぇの。俺に迷惑かかんねぇし。面白いし。セックスレスになったら遊んでくれ」 「じゃぁお前が結婚したとしても何も言わないでおく」 珍しく殊勝なことをいう、と思ったら、そうでない奴がいた。 「あかんて、フランスやもん。結婚したら自分で全部話すて。馴れ初めからベッドのあれこれまで。そんでそれが原因でその場でふられてん離婚してまうの」 「あ、それいいな」 よくねぇよ!俺の声なんか聞いちゃいねぇ。二人はケタケタ笑った。ひっでぇの。なので、俺は一つ、嫌がらせをすることにした。 「二次会の幹事のアメリカから、お前らに一つ質問がある。で、結局どっちがどっちなんだ?あ、もちろんケツの穴の使い方についてだ」 二人は、まるで似たように笑った。 「混ざったらわかるでー」 タキシードのラテン系はニッコリ。ああもう可愛い変・態・さん! 「御冗談。新婚の床にはいるような野暮じゃございやせん」 俺は両手を挙げた。ゲラゲラ上がる笑い声はあまりに下品で俺好み。だって俺達友達だから。 「嘘つけ、お前、いまちょっとありかと思っただろ。なんの想像したんだ?」 もう一人のタキシードがニヤリ。まるで素敵な変質者。世の中はどうにも狂ってる。 狂ってる。 されど問題ないわが友よ、どうかくそったれな幸せを! |