※ Attention please!

英国産のナポレオン戦争時代が舞台のドラマ、「炎の英雄シャープ」とのダブルパロディです。
嫌悪を感じる方は、窓を閉じてお戻りください。

ドラマの内容
一兵卒=平民出身のリチャード・シャープがウィルズリー将軍の命を救ったことから、このウィルズリー将軍から中尉の位を授かり、元荒くれ者たちで構成された精鋭ライフル部隊「choosen men(選ばれし者達)」の隊長となります。将校は貴族というのが当たり前の時代、中傷や妨害を受けながらも、シャープはその階級を着実に上げていく……そういうお話です。 OK!と言う方は下へどうぞ。





















「シャープ、今日はお前に合わせたい人物がいる」
英国軍の野営基地の岩場を歩きながらホーガン少佐は葉巻に火をつけた。
「高貴なお方だ。非礼は働くなよ」
太鼓腹をゆらせながら、彼はシャープ大尉を見た。
「どのような方で?」
深緑色の軍服に身を包んだシャープ大尉は、薄く笑って、フランス軍がいるだろう、岩場のはるか向こうを遠い目で見た。
お前は、とホーガン少佐は何かためらうように一度言葉をきり、それから一つ咳ばらいしてから続けた。
「国、という存在を聞いたことがあるか?」
Country?と思わず、シャープ大尉は聞き返した。
「それは勿論、知っておりますが、国がなければ今頃フランスと戦争していることもないでしょう」
何かの隠喩かと思い、シャープは続ける。
「たとえばこの岩場は、スペインの国土だ」
と彼が言うと、そうではない、とホーガン少佐は、何か苦虫をつぶしたような顔をした。
「私がいう、国とはこの土や岩のことではない。私の言う、国は、人の形をしている」
は、とシャープ大尉は馬鹿にしたように笑った。
「その国ですか!私も噂には聞いたことがありますが……あんなのは、アヘンかウィスキーのアルコールにやられた兵士達の夢でしょう。まさか少佐ともあろう方が、そんな噂を信じていらっしゃるので?」
ホーガン少佐は盾に首を振った。
「ああ、そのまさかだ。私は3度だけ、「彼」にあったことがある。私も初めてウィルズリー将軍に「彼」と引き合わされたときは驚いたものだよ」
彼は、その図体に似合わぬ重い溜息をついた。
「では、少佐、まさか」
「ああ、これもその「まさか」さ。今日、ここに視察にいらっしゃるのは、我らの母国、United Kingdomそのものだ」
身震いをして、彼は続けた。
「一兵卒出身の将校ということで、お前に興味を持たれてな。人間として、便宜上の名をアーサー・カークランドと仰る。形だけだが、公爵の位をお持ちだ」
「私の耳が、戦場の爆発音でやられたのか、おっしゃることが頭にはいりません」
「そうだろうな、だが会えば分かる」
ただ、くれぐれも無礼は働かぬようにな、とホーガン少佐は念を押した。
「いつ頃、その……「彼」はいらっしゃるので?」
「もう、そろそろだ、あと1時間か2時間ほどでいらっしゃる予定だ」
言いながら彼は、崖の下を見下ろす。そこでは、休憩中の兵士達が歌を歌っていた。
「何故、今日まで内密に?せめてもう少し早く知っていれば、私も心の準備ができたかもしれないのに」
「これでも私は情報将校なものでね。出来うる限り機密は漏らしたくないのだよ。国そのもの存在や、ましてやここに来るどと、いたずらに混乱を招くだけだろう」
「私は十分混乱していますが」
「大丈夫だ、彼にあったらもっと混乱するだろうよ。だがお前ならその混乱からもすぐに回復するさ」
そういってホーガン少佐はウィンクをした。今度はシャープ大尉が苦い顔をする番だった。 「かいかぶられておられる」
「そうさせているのは、そういう風に普段振舞っているのは誰かね?」
言いながら彼は、懐から望遠鏡を取り出しそれを覗いた。
「シャープ」
「なんです、サー」
「予定が繰り上がった。彼は後10分でここに到着する」
望遠鏡から目を離さないまま彼は言った。
「護衛も含めて3人とは相変わらず、無茶をなさる、困ったものだ」
ホーガン少佐に望遠鏡を渡され、シャープ大尉もレンズを見ると、そこには、青い高級将校の軍服を身につけた男が、二人護衛らしき若い青年をひきつれている様子が映っていた。
「あの、青い服を着たのが、彼ですが?」
「会えば分かる」
下の兵士が一層騒がしくなる。レンズに映った3人が馬の足を止め、兵士達に、ホーガン少佐に会わせるよう伝えているのが見えた。
「少佐、大尉」
兵が声をかけるのが聞こえる。
「ああ、今行く」
言いきってから、少佐はたばこの火を消した。シャープ大尉はホーガン少佐に望遠鏡を返し、彼についていく。
馬にのった3人組は、二人に向かって敬礼をした。中央の青い軍服に身を包んだ男が馬から降り、続けて左右の二人が降りた。逆光と黒帽子で顔はよく見えない。
ホーガン少佐は帽子をとり礼をした。
「お久しぶりです、カークランド卿」
「久しぶりだなホーガン。5年前にロンドンで会ったきりか?」
そう言って歩み寄り、ホーガン少佐に握手したのは、青い軍服の護衛のようであった、若い、赤の軍服を着た青年だった。透けるブロンドと、みどりの眼を持っている。その顔のあどけなさに、シャープ大尉は驚いて思わず、小さく口をあけた。
「カークランド卿、こちらが、シャープ大尉です。シャープ、この型が先ほど話した、カークランド卿だ」
その紹介に、差し出された手に、シャープははっとして、「彼」と握手をかわした。
「会えて光栄だMrシャープ。将軍を通してあなたの活躍は聞いている」
「こちらこそ、お会いできて光栄です。カークランド卿。お話は少佐より拝聴いたしました……ですが、その」
と、戸惑ったように言葉を切った。ホーガン少佐が片眉をはねる。
なんだ、と「彼」が聞くのでシャープ大尉は続けた。
「その……もっとお年を召されているのかと」
そういうと、ははッ、と「彼」は声を出して笑った。
「なるほどな「若造」。こういえば満足か?」
見た目に反して低い声が幾分か尊大に響く。シャープ大尉は顔をしかめた。
「悪かったな。気分を害したなら謝ろう。初めて、俺と会う奴にそういうことをいう人間は少なくない」
そういって、彼はその緑の目でまっすぐシャープをみた。
「では、あなたは、その目で、アルマダの海戦を見たと?」
おい、と小声でホーガン少佐が注意をしたが、かまわん、と言って彼は続けた。
「ああ見たとも。ジャンヌダルクが焼かれる様もな」
彼は、容姿の年齢に似合わぬ笑いを浮かべる。国だと言われても納得の仕様はなかったが、この「若造」にむかって、ホーガン少佐は確かに敬意を払っているようだった。
「Mrシャープ。どうやら自分にとても正直な性質なようだ。それでいて、紳士であろうとしているのは悪くない。気に入った」
戸惑いを隠せぬまま、シャープ大尉は「Thank you, Sir」と返した。
「気骨がありそうな目をしている。フランス軍に一泡浴びせているだけのことはあるな。俺の望みを言おう。Death to France(フランスに死を)。だ。そのために俺は、ロンドンではなく、ここにいる」
それにしたって、護衛が少なすぎる、ジョージ王が何というかとホーガン少佐がぼやくのを、彼は眼で制した。
「皇帝の鷲を、フランス軍から奪った、貴公の武勲に対して、これをやろう」
そう言うと彼は、懐から金属性のブランデーボトル取り出して、シャープの手によこした。
「それからこれは、ホーガンお前にだ。でも程ほどにな」
葉巻をホーガン少佐に渡すと「野営基地を案内しろ、ホーガン」と命じた。Yes, sir、と短くホーガン少佐は応え、彼の横についていく。
「では、シャープ、また後ほど」
強い眼差しで一度だけ振り返ると、軍人らしく彼は一直線に歩く。その軍靴が土を踏みならすのが遠くに行くのを見やってから「あれが、我らが「英国」ねぇ……」と言って、シャープは先ほど貰ったブランデーの栓をあけ、くい、っと飲んだ。