朝チュンてきななにか


 この男を可愛いと思う俺の頭はきっと蛆虫がわいているのだろう。グロテスクなもの程、美しくあるべきだというのは一種の美学だが、これは違う。断じて違うだろうと俺は半分落ち込みながら、隣の寝顔を眺める。
 ああ。髭全部抜いてやりてぇ。
 そう思って手を伸ばそうにも、こいつの腕が俺の体に回っていてそれも残念なことに叶わない。ごそごそ、と動いてた瞼の裏の青い眼がうっすらと開いた。
「なに、ぼっちゃんもうおきたのぉ?」
「ん」
「さむいんだよね」
 それだけ言って俺の体を抱え直すとまたフランスは眠ってしまった。ちくしょう、睫毛長いな、どうしてくれる。
 人の体温は嫌いじゃない。気持ちいいのは嫌いじゃない。だけどこいつは大嫌いだ。そう言うことにしておかないと、お互いのためにならない。うん。
「ぼっちゃー……ん、いっちゃやだ」
 寝言でも気持ち悪い声を出すんじゃねぇアホ!
 万感の思いを込めて俺は裸足で奴の脛を蹴ってやった。
「いっ…つ!てんめぇ、俺がなにやったつーんだ!」
「胸に手を当てて考えてみろよ。悪いことしかやってねぇだろう」
「なに、お前の胸に手をあててほしいって?」
「……死ね馬鹿」
「可愛くねぇなオイ」
 拗ねるのも可愛く見えるあたりはやっぱり俺の頭は熱があるに違いない。メルド、といつもの挨拶を食らいながら上にのしかかってまだ惰眠をむさぼろうとするオッサンの下で、しかたないから、諦めて俺も目をつむることにする。セックスの後、寝たいだけ眠れるなんて言うのは言葉にしがたく、そして得難い幸福だ。それを享受するのは、俺としてもやぶさかではなかった








私立校パロ没ネタ


 アーサーは、ベッドの上に腰掛けて、ベースを弾いていた。不良とリベラルの象徴だったロックンロール。今は、ティルコートで有名なパブリックスクールにエレキギターを教える教室がある時代。学校代表の彼の横にはアンプ。ピックと弦にずっと集中していると、上からヘッドフォンを取られた。隣で眠っていた筈の、フランシスが笑っていた。
「おはよ」
「おはよじゃねぇよ。今は夜だ」
 アーサーはあからさまに嫌そうな顔をして溜息をついた。「おはよ、じゃなけりゃ、なんて挨拶すりゃいいんだよ」と言ってフランシスはアーサーの隣に座った。今度はフランシスがため息をついた。
「お前さぁ、あと何回「おはよう」って挨拶できると思ってんの?」
 フランシスはアーサーを睨んだ。アーサーは一瞬だまって、うるせぇよ、と答えた。胸が、ネクタイの、金糸の刺繍がある当たりが酷く痛い。じっと、フランシスはアーサーを見たが、彼が何も言わないので諦めて話をそらした。
「人のベッドで何弾いてんだよ」
「プライマルスクリームのRocks」
 素直にアーサーは答えた。「ふーん」、とフランシスは聞いた割には気のない返事をして、彼の肩に顎をのせた。アーサーは、わずらわしそうに「重てぇ。触んな」とフランシスを見ずに答えた。
「いいじゃん、しょっちゅう触ってたんだから」
 フランシスはそう言って、制服の上から彼の体に抱きついて襟から覗く首に口を寄せた。「邪魔だ」とアーサーは乱暴に身を捩った。反応が面白くて、フランシスはアーサーをくすぐった。笑いながら二人で暴れると、不意に、バン!とベースのネックがフランシスの顔に当たった。
「悪い」
 気不味そうに、アーサーがあやまった。
「……いい。俺も調子にのったから」
 顔を抑えながらフランシスは言った。しばらく沈黙して、フランシスは後ろから彼をだいたままその背中に顔をうずめた。アーサーはアンプからベースを抜き、今度はヘッドフォンをせずにまたベースを弾きだした。自由時間は、あと30分だけだった。
「俺のこと好きって言えよ」
 フランシスは笑った。アーサーは真っ赤になって、馬鹿野郎!と彼を殴った。それを教師に見られていたら、彼も自分も今の地位にはなかったかもしれない。でもいい。この顔をは自分しかしらない。
「……ド阿呆」
 ま、いいじゃん?そう言ってフランシスはアーサーの唇にキスをした。慌てて目を閉じるので、可愛いな、と思った。







※これを書いた時は二人は同じ寮で同室の設定でした。