むしゃくしゃする。理由はない。理由がないっていうのは、ひどいことだ。俺はまっすぐに歩けない。ライ麦畑で、捕まえてくれるひとがいればいいのに。
 Help!って大声で叫んでるのに、見向きもされない気がする。神様も大変だ。願い事がこの世には多すぎる。でも、本当にいいたいのが、Helpなのかもわからない。
 しょうがないから、俺は、電話した。コールミーって絶叫しても届かない時は、自分からコールをするしかないじゃないか。帰ってきたのは、気のない声だったけど。
「なんだ、アメリカ、俺仕事中なんだが」
 ひどいじゃないかイギリス。昔は、小さいころはあんなに親身だったのに、手をほどきたくなるくらい、ベタベタだったのに!
 口には出さず、おれはうなった。ゲームをして遊ぼうよ。そう言いたいのに、世界は仕事を免罪符に俺を通り過ぎる。Love me doは届かない。Love me tenderならなおさらだ。
 けれど、イギリスは、不思議と元気そうに相手をしてくれた。忙しいなら、切れよ。
「珍しくしおらしいじゃねぇか」
 そういう彼は嬉しそう。年よりっていうのは悩む若者が大好きだ。青春映画がよく売れる理由の一つだと俺は思う。
 毛布にくるまった俺は、手を伸ばすことも出来ないのに。なんでなんだろう。ホルモンバランスの崩れとかだったら神様にファック。いや、ごめんなさい、どうか罰をおれにあてないで。
「暇なら遊んでもらおうと思ったんだ」
「悪いな、ちょっといまは」
 余裕がない。余裕っていつできるんだ?誰か教えてくれ。
 大人になったら、教えてくれる人がいなくなるなんて、ひどいじゃないか。
 熱い夜は嫌いだ。寒い朝も嫌いだ。口についてでるのは文句ばかり。夕焼けを湛えよ!目が見えない人はどうするんだよ。海を聞け、耳が聞こえなければ。永遠を歩け。脚がなければ。
 意味もない。
 意味もない。
 意味なんてないのに。
 イギリスは溜息をついた。君のせいだ、と俺は言った。だって、子供がだめなのは、育て方がわるかったからだろう。君は文句をいう言うけど、それは気味が悪いんだ。
「世の中のせいにすんな。俺のせいにもすんな。他人のせいにしていきるのは、自分の人生他人のレールで歩いて来た証明だ。たいていの面倒ごとと憂鬱は自分の情けなさが原因なんだよ。やるべきこと胸はってやりきったかなんて言えるか?」
「そんなの言えるひとなんているのかい?」
 いいや、とイギリスは否定した。俺の不幸は、お前とフランスが諸悪の根源だけどな!とイギリスは元気よく付け加えた。誰かが言ってた。二十歳を過ぎたら、親のせいにしちゃいけない。その先の選択は結局、全部、自分がしたことだ。
 彼らは、わがままでずるい。まるで大人なんかじゃない。
 そのくせ、彼らは子供にできないような大胆なことを簡単にやってのける。
 胸の膿が俺を襲う。海よりも罪に溺れる方が簡単だ。でも、そんなこと、誰も教えてくれやしなかった。誰も許してくれやしなかった。
 じゃぁ、どうやればいいんだ。
 茨の海を。世界の切っ先を。自分がいなくても地球が回るのは自意識過剰だからだけど、でも。
 うれしそうに誰かがクツクツと笑った。どれだけ切っても切れやしない。感情が、ネットショッピングでピザのトッピングを選ぶみたいに、変更できたら最高なのに。
「夜を走れ、若人。俺にはもうできない」
 そういってイギリスは手を振った。いや、電話ごしだから見えないんだけど。
 君だって本当は、年よりなんかじゃないだろう。年寄りは年のせいにする。それは、誰かのせいにするのと、多分あまり変わらない。大人は大変なんだよって、簡単に言う。それはいつだって今が苦しいだけなのに。
 若いころのツケは借金だ。
 雪だるま方式で、利子は十日で一割。最高の犯罪だよね。君は真面目にやってきたのかな。
「大きくなったら、きっともう、楽なんだって、毎日はどんどんよくなっていくんだって、そう信じてたんだけど」
 思うと、フランス人のひげのおっさんが言うような声が聞こえる。
「そうは問屋がおろさないだろ?いいじゃねぇか、ゴールの先がある。めでたしめでたしで終わらないからな!堕ちたふりなんてすんじゃねーぞ、だとしてもちっとも幸せになんかなれねぇからな」
 あとは、枯れた日本人の声とか。
「まぁ、力とエネルギーがおありですから。いいですね。有り余ってるのは。元気なのがうらやましいですよ」
 真面目で悪いかよっていう人がいるのに返したい。元気って、そんなに悪いのかい?呆れたように君はいうけれど、そんなのタダの老獪さのいいわけじゃないか。やる気のない自分に対する、ごまかしだろ。そうだって認めなよ。俺が認めるから。
 胸が痛いってよくいう。本当にそうだ。物質がでているのは、脳のはずなのに。もしも、心が痛むときにが、つらい体の場所が、足とか耳とかだったら、世界史は今とは違う姿だったのかな。
 赤い血は、さみしくて泣いていた。
 喫茶店で一人でコーヒーも飲まない。その結末は、精神病院で診察されながら、俺は狂っちゃいないんだって言うことだから。悪くはないけど、ライ麦畑で捕まえてくる人は多分俺にはいないだろう。
 俺は夜を走らない。きっと夜が走るから。






/イギリス

 腕を切るので楽になるなら、腕を切り落とせばいいだろうとその写真を見て思った。
 胸に憧れのスターの名前を刻むグル―ビー。黒くくすんだ血がにじんでる。そのまま心臓を抉り出せ。安っぽくてチープで吐き気がする。結局はやつらは薬で死ぬか、アルコールで死ぬか、はたまた誰かの死体を踏み台に、あるいて、電飾のきらめきのなかを切り抜けるか。この世はユーモア。老いも若きも食いものだ。食え。食い散らせ。
 昔、添加物みたいにギラギラしていたロックンローラーは、体を壊して今ではブラウンライスを食べている。悪い事じゃない、けど簡単に失望できる。
 いや、世界はなんて言えるほど、この世界をおれはこれっぽちも、見ちゃいないんだけどな。
 なのにさ。
「アイスが食べたいであります、隊長!」
 バカなんだとおもう。だから幸せなんだと思う。ああいうのは。でもすごい。多分あいつは、俺の100倍、賢いんだろうな。
 幸せになる方法は簡単だ。いまから素敵なものを100個きちんと探せばいい。不幸な理由を数えずに、ラッキースターを見上げるんだ。
 本当にさみしいなら、笑えばいい。本当につらかったとしても、歩けるのは。もしも、俺がもっと弱かったらよかったのしれないと思う。ここまで歩けなかったなら、俺はもっと、救われてたんじゃないかって思う。自己嫌悪。ポジティブとネガティブの二択せまるな。右と左のイデオロギー。知るかよ!単にお前らは、苦しいだけだろ、理想を語るなら今すぐ俺を殺せ!
 花を育てる。まるで、女みたいな趣味だという奴は、差別主義者なんだろうな。女らなおさら。ポルノを認めない女は結局自分の首を絞めることになるぜ。嫌いなものを抑圧しているうちは、自分の言いたいことなんて言えやしないのさ。幸せになんか、なれねぇんだよ。だから俺は、一人だって平気なんだ。
 花は未来のために育てる。咲くまで、まだ生きていようと思えるから。神経症の女子高生が、ショックロッカーの次の公演まで、生き延びようとおもうのと、同じ心理だ。それまでまだまだ死ねない。
でも神様。俺だって幸せになりたいから。幸せになりたいと、ちゃんと言えるようになったから。料理くらいは作れるようにさせてくれ。この赤の手よ、壊疽を起すなよ。傲慢の舌よ、腐るんじゃねぇぞ、まだお前らには仕事が残っている。
 他人の幸せを、願えないかぎり、幸せにはなれない。
 幸福よ。今ならお前を肯定する。
 本当に自分が嫌いになったら?
 25口径はアメリカ式。だから、おれはロンドン橋を爆破してやるよ!