注意
愚者の楽園は、フランスさんがイギリスさんに女装をさせるお話です。
季節はハロウィンです。













時は秋を前にした、九月末日。場所は欧州の某国国会議事堂休憩室。机の上に、一つの段ボール箱があった。その上蓋には円い穴が開いている。イギリスはその穴に腕を突っ込んだ。中には、四つ折りされた紙が十数枚、入っていた。しばらく中をかきまわしてから、その一枚を引いた。彼の指が紙を開くのを、アメリカが横から覗きこんだ。その結果を見た時、イギリスの眉間に皺が寄った。
「今年のハロウィン、君は女装か。それは見ものだね!」
 殆ど恨むような目線で、イギリスはアメリカを見た。
「俺がアメリカ式ハロウィンに従う義務はない」
「いいじゃないか!みんなで仮装して盛り上がろうよ。勿論、パーティー費用は割り勘だぞ!」
ち、とイギリスは舌打ちした。ハンガリーは何故か口元を隠し、日本は「私も出来れば拝見したいですね」と言った。他の国々は、すっかり来る祭りの話題で盛り上がっていて、ポーランドが「女装やったら絶対俺のが似合うしー」と言ってリトアニアを困らせている。
「喜んで譲ってやる。ポーランド。お前、ミイラ男だったろ?クジ交換しねぇ?」
「駄目だよイギリス。決まったものは決まったんだ。悪あがきはみっともないぞ」
「うるせーよ。ガキは知らねぇだろうが、中世じゃ異性の衣装を着るのは禁忌だったんだ」
そう言って彼が嘆くと同時に、休憩室の扉が開いた。
振り向くと、手洗いに立っていたフランスが、コーヒーを片手に入ってきた。彼のクジ番はとうに終わっていて、結果は吸血鬼だった。 「お、イギリスお前くじ引き終わったのか?何だったんだよ」
そうフランスが言った瞬間、と回りの空気が引きつった。アメリカが、これは『やってしまったかもしれない』という顔をする。今現在において、イギリスとフランスの間には世界も知る、ある問題が、お互いの協議もむなしく、未解決のまま横たわっていた。
周りの沈黙を、不審に思ったフランスは、未だイギリスの手の中にある小さな紙切れを覗きこんだ。イギリスは、それをとっさにしまいこもうとしたが、フランスは「隠すなよ」と言って彼の手からそれを奪った。
そこに書かれた文字をフランスは読んだ。無表情だった。イギリスはフランスの手中にある紙切れと同じく、顔を皺くちゃにして色を無くした。ドイツは、この先、何が起こってもいいように身構えた。アメリカは頭を掻いた。フランスは、紙コップを机の上に置き――、それから花が咲いたような晴れやかな笑顔で、イギリスの襟首に掴みかかった。イギリスは、微かに怯えの色を浮かべた。
イギリス、と彼は詩を詠むようにさえずった。
「俺が全部用意してやる。衣裳だけじゃない。これから先、ハロウィンまで毎日、肌と髪の手入れからマッサージにシェービングまで全部やってやる。当日は髪も化粧も全部おれがセットする。つーか、やらせろ。お前に拒否権はねぇ!」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
フランスが、イギリスの投げ出された格好になる足の前に座ると、イギリスは、はっと気づいて漸く腰回りをタオルで隠した。イギリスが、低い声で何をしにきた、と言うと、フランスは「毛を剃りに」と何でもないように言った。イギリスが、ガッと顔を赤くすると「そっちじゃない。脛と腕の。それとも大事なところの毛もそって欲しかったのか?俺はそれでもいいけど」と言って下品な笑いを浮かべてので、ついに我慢しきれず、イギリスはそのままの体勢でフランスの腹を脛で蹴った。フランスは少しよろめいたが、「いいから大人しくしてろよ。綺麗にしてやるから」とあまり、気にはしていない様子で準備を始めた。イギリスに跪いた体制のまま、先ず、タオルで余分な水分をとる。それから、ゆっくりと、丁寧に、両手でシェーヴィングクリームを左脚に塗り広げていった。左脚が終わると次は右も同じように、塗っていく。その丁寧で、柔らかく優しい手つきが、まるで、本当に大切なものを扱っているようで、イギリスは見ていられずに目を剃らした。








という感じの女装本です。