ザ・ロックンロール・ガーデン











レタスは手でちぎるに限る。やいたバゲットにバターとそのレタスとターキーを挟めば、それだけで旨いブランチだ。
イギリスとアメリカは、フランスの支持に従っておとなしく林檎を剥いている。男3人でランチというのは少し哀しいものがあるが、今日はいい日だ。
「ワインは白だ。いいな?」
「いいよ。俺はカルフォルニアの赤がのみたいけど」
黙れアメリカ人!とフランスはどなって3人でテーブルに着いた。食前の祈りをささげる瞬間はもうない。腹をすかせた獣さながら、がぶりとかみつきアルコールを飲む。
「あーやっぱり君の作ったご飯はおいしいなぁ」
そしてアメリカの前にすわるイギリス、もとい「ちびりす」の頬はいっぱいのアルコールで真っ赤だった。 「あ、あめりカメラ」
「君、言えてないよっていうか動揺し過ぎだよ!ほらイギリスもワイン飲まない!未成年はアルコール禁止なんだぞ」
そう言ってアメリカはイギリスからワイングラスを取り上げた。
「やだアメリカ、俺それ飲みたい」
「だーめ。君はいい子だろ?お兄ちゃんの言うことは聞いてくれよ」
ちびりすは一瞬、ムッとしたが「わかった」といってまた小さな手をサンドイッチに手を伸ばし始めた。 頑張って口を開いてかぶりつくのが可愛らしい。
「……フランス、君、鼻血が出てるよ」
「いやだってこれ見て可愛いくないわけねぇじゃんああああああ」
「……イギリス、彼、もしかしてずっとこんな感じかい?」
「毎日一緒にお風呂に入ってやるんだけど血のお風呂になるんだ」
アメリカは沈黙した。フランスに任せたのはやはり間違いだったようだ。

イギリスがなぜ3歳児のサイズになってしまったのかはよく分からない。記憶もないらしい。しかし、彼が多分「呪 兄より」的な何かで小さくなってしまった世界会議のことをアメリカはよく覚えている。
フランスの変態ぶりが普段の斜め上だったから。
「イギリスイギリスイギリス!!!」
大きなスーツという服として用をなさなくなった布をまとった幼児はそのただならぬ雰囲気にびくぅ!!と震えた。
「ああもう可愛い可愛い可愛いなぁまたお兄さんの召使いになろうな!今度こそちゃんと育てなおすからな、寂しくないぞおれがお父さんでお兄ちゃんで永遠の恋人だよハァハァ」
そう言って、いきなり髭を幼児の薔薇の頬にすりつけたので、アメリカは何の迷いもなくその後頭部に一発ケリをいれて昏倒させた。
ちっちゃくて眉毛は太く、エメラルド色の目をした何物家の前に、アメリカはしゃがみこんだ。ぽけっとをごそごそと探ってキャンディを取り出すと、その中身をほぼ無理やり、その子供の口に突っ込んだ。
「……ハロー。言葉は通じるかい?」
「ハロー。お前誰だ?」
「そういう君は誰だい?」
「イングランド。アーサーって呼ぶ人もいる」
「そうかい。所で今は西暦何年?誰にアーサーって呼ばれたの」
そこでイギリスは首をかしげた。口の中でキャンディをころころ舐めている。なんとなく庇護欲にかられた。うん、なるほど、これが「おとうと」欲しくなるような気持ちか。
「キャンディ、おいしい?」
「まずくない……」
他の国々があっけにとられてる中、アメリカはAKYの本領を発揮して、イギリスもどきにさらに話しかけた。
「そういう時は、ありがとう、おいしいよっていうんだよ。で、この髭のおっさんは知ってるかい?」
イギリスは「知らない」といった。
(もしかして)
アメリカの頭に一つの疑念がわいた。
「名前のほかに、自分のことは何か知ってるかい?」
「じぶんのこと?」
彼はさらに首をかしげた。
「日本、これって記憶喪失だと思う?」
「さぁ……」
「記憶喪失でもなんでもいい!!俺が育てなおーす!」
起き上ったフランスの頭をドイツが踏んだ。
あんたが育てたら明らかに二の舞だ目の前のこの子が不憫すぎる!!
世界はそう思ったという。
なんとなく、アメリカは直観でやっぱりこの子はイギリスなんだろうな、と思った。さてどうしたものだろう。
しばらく相談し、アメリカは「世界のアメリカが連れて帰るから君は下がってなよ!」と主張した。しかし、フランスがそれ以上に、パリの根性を発揮して「いやだ世界で一番こいつに近いのは俺なんだ誰が何と言おうと俺が育てるじゃなきゃ誘拐する大丈夫児童虐待はしないから!!」と夢枕に立ちそうな形相でアメリカの襟首をつかんだので、世界はあきらめた。きっとそれが運命だ。
まったくもって状況においてきぼりをくらっていたイギリスの頭を、アメリカはなでた。自分もこれくらいの時あったんだよなぁと思うと不思議な気持ちになる。
「ねぇアーサー。君はね、国なんだよ。っていってもわかんないだろうけどね……まぁちっちゃいから、誰かに守ってもらわなきゃいけない。本当は君の国に返すのが一番なんだろうけど、そうすると誘拐しかねない人が一人いるから……誘拐されるよりもましだと信じて、今日から君はこの髭のオッサンとしばらく過ごすことになる。どれくらいかはわからないけど……俺もたまに会いにくるよ」
イギリスは、アメリカの顔を不安そうに見上げた。
「あ、甘いの、キャンディ、ありがとう」
その返事にアメリカは破顔一笑。「いい子だね!俺はずっとそんな君がすきなんだぞ!」とさりげない爆弾発言をおとしながらフランスの方を見た。
「……というわけで、別にそだてなくていいけど、ちゃんと世話はしてやってくれよフランス」
お前に言われなくても!、と別の意味で不安を起こす意気込みを見せるとフランスはおずおずとイギリスに手を伸ばした。
「イギリス、おいで。また俺が髪を切ってやる」
イギリスはよくわかってないようだった。ただ、服というにはあまりに大きすぎるシャツを一枚着て、彼の方に歩いて行った。えっちらおっちら歩く彼を、フランスは唐突に抱きあげた。
「わ」
イギリスは小さな顔を真っ赤にして少し暴れた。しかし、それを気にせずにフランスはしっかりと腕に抱いて「寝ちまえ。疲れただろ」といった。「それともお兄さんの子守歌聴くか?うん」イギリスは口をパクパクしながら、何度か小さな手でフランスを叩いたがそれも気にせず何度もその背をポンポンと叩いた。そのしぐさがあんまりに丁寧で優しいのでアメリカは溜息をつく。スペインはつまらなさそうにあくびをして、ドイツが「会議が潰れた……」と文句を言った。
いつの間にか、本当にイギリスは寝てしまって「仕方ない、今日はもう解散だぞ!」とアメリカが言った時。
「……もしかしなくてもイギリス、今ノーパン」
はぁはぁ。
フランスの一言に場が凍った。聞こえるはフランスの熱い吐息のみ。
「お下品です」
オーストリアのセリフに、やっぱり年の功ってあるんだなとアメリカは思った。

はてさて。
アメリカはイギリスとフランスの二人を観察する。それなりに、幸せそうだ。フランスは、冷蔵庫から林檎のプティングを出してふるまう。アメリカは、食後のコーヒーと一緒にそれを食べた。素朴だけどどこか上品な味。フランスは、スプーンですくってそれをイギリスの口にいれる。イギリスも、きっと疑問にも思わずにそれを食べている。
(ああーやだやだ)
イギリスが自分とのことで、やり直せたらいい、と思ったようなことをフランスはやろうとしているのかもしれない。だとしたら、それは気分が悪かった。
誰よりも、とは言わないが、それなりに彼らのことは知っている。フランスは、多分、イギリスのことが好きだ。好きと言ってもどういう「好き」かとはいえない。「嫌いだ」といいつづける「好き」もあるだろう。それはアメリカもよくわかっている。
イギリスが来ている白のニットのセーターは彼が編んだんだろう。小さなイギリスをみるフランスの目が少し怖い、とアメリカは思う。
アメリカがいつの間にか大きくなって、3人で酒を飲むようになった。その時には押さえていた、なにか割り切れなかった感情の、その割り切れなかったはずの所をそのままに彼を見ている。優しいハズなのに、酷く生々しいのだ。
どこかに感じる独占欲の匂いが、自分はどうしても怖いのかもしれない。
誓って、この小さい彼のことが嫌いなんじゃないけれど。
早く出来れば自分より年上の彼に戻ってほしいと思う。小言がないのを寂しいと思うのは、自分がまだ彼に甘えてるからなのか。その考えは少し、寂しい。
こんな美味しいごはんばかりをたべていたら、イギリス料理上手になっちゃうんじゃないか?
文句をいいながらもフランスに餌付けされるイギリスを見てアメリカは笑った。
「イギリス、今日は俺と一緒にお風呂に入ろうか」
おい、てめぇ!とフランスがどなったがアメリカは聞かない。
「どうしてもっていうなら入ってやる……」
けれど、イギリスは不思議とほっとした顔をした。
「なんならフランスも3人で入るかい?」
「いや」
フランスの顔が暗くなる。イギリスは分からずに、不思議な顔をする。
フランスの声が聞こえてきそうだ。
好きだよ。
本当に好きだよ。お前が大好きだよ。
毎日、そう言って一緒に寝るんだ、とイギリスが携帯にメールを送ってくきたことがある。
そうでなければ、フランスがメールに写真を添付して送ってくる。それは、寝顔だったり、ただ歩いてる姿だったり、サッカーボールで遊んでいる姿だったりする。
(ねぇ、イギリス。君はフランスのことが好かい?)
聴こうと思ったが、アメリカはそうせず、ただフランスに「性的いたづらだけはしないでくれよ」といった。